建築家として独立したばかりの頃、私は故郷の愛知県岡崎市で父の家を設計することになりました。親の家とはいえ、一軒の家をまるごとまかされたのです。大学の建築学科を卒業した息子の実力をオヤジに認めさせる絶好のチャンスです。私はいくつかのアイディアを胸に、意気揚々と実家を訪ねました。ところが父は、私の話を聞く前に一枚の紙を広げて、こう言ったのです。「この図面のとおりに設計してくれ」なんと我がオヤジ殿は、「設計はおまえにまかせる」と言っておきながら、裏でしっかり旧知の家相家に相談し、間取り図までつくらせていたのでした。
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それがまた、新進の建築家の目から見てもとんでもない図面でした。なにしろ、真南に面したいちばん日当たりのいい場所に台所。居間はその北側だからほとんど日が差しません。午前中、最高の居場所となる東南の角が風呂場で、しかもその風呂場は台所から渡り廊下でつながっています。なんとトイレまで渡り廊下ではありませんか!「なんだよ、この図面。こっちが南だろ?冗談じゃない。こんな家、設計できないよ。家中、真っ暗じゃないか」「いいんだ。すべて鬼門を避けてもらった。これが良相の家なんだよ」もともと岡崎は徳川家康公発祥の地で、歴史ある、どちらかといえば保守的な土地柄です。