お金を預けた時には、いろいろな期限の国債が用意されていた。その中から、こちらの希望する期限の国債を選んで買うことができたのだ。それなのに、数年の間に合併を繰り返して巨大化したその銀行では、事前に連絡を入れておいたにもかかわらず、五年満期か一〇年満期の二種類の国債しか、用意できないのだという。この金は二年後(二〇〇八年)の大規模修繕の支払いのためのお金で、国による元利保証がなければダメなのだ、と説明しても、投資信託はいかがですか、などと言うのだ。
[参考サイト]
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それは元利が保証されているのか、と食い下がると、こんどは10年満期の国債を勧めて来る。二年後に現金化が必要な資金を、そんな長期の国債に預けられるはずがない。だいたい金利水準はその時が大底レベルである。公定歩合も予想され、これから金利が上がることはあっても下がる可能性はない。期限の長い固定金利の国債では、金利が上がれば自動的に含み損が発生する。店頭には「お客様のニーズに応えたい」という趣旨のポスターが張ってある。嘘だね、と思う。最近、銀行の店内には証券子会社も同居するようになった。だが証券業なら当然の「市場に注文をつなぐ」という意識が、まるで見られないのだ。それなら定期預金はいかがですか、と銀行員は言うが、定期預金のうち預金保険でカバーされている範囲は、ご存じのように上限わずか1000万円である。金余りの世の中だ。六〇〇〇万円程度の金で右往左往しているような客なんて、彼らにとっては、クズ同然なのだろう。客の都合を聞こうとせず、ただひたすら銀行の都合を客に押しつけようとふるまう銀行員に対して、私も、副理事長も、ついに頭に来たのだった。「わかりました。現金で引き出しますから、用意してください」こう言い放つだのだが、銀行員は平然としたものである。しばらくすると、本当に、紙袋に入れた六〇〇〇万円分の札束がポンと出てきたのだ。私も副理事長も、六〇〇〇万円の現ナマを手で触った経験は生まれて初めてだったので、ある意味では面白い体験である。だが、はて、さて、これからどうすれば良いのだろう。国債も証券の一種だ。証券業といえば、野村誼券が一番でしょう。二人の相談は即決した。野村誼券の本店に、もちろんなんのアポもなく、なんの取引関係もない我々は、現金をブラ下げて入っていったのである。最初に確認しておかねばならない問題があった。私のマンションの規約で定める横領防止のシステムを、野村誼券が果たして飲んでくれるのだろうかという点だ。印鑑二個を登録して、両方が揃わないと引き出しできないという、あの制度のことである。「それは無理なのですが……」と申し訳なさそうに課長氏。だが「この方法ではどうですか」と代案をただちに提案するところが、さすがは本店の課長である。お金の引き出しは銀行振込に限定する。しかも振込先として、例の銀行口座、つまり印鑑二個が必要な銀行口座以外には振り込めない契約にしておけば、実質的に問題は解決するでしょうというのだ。こういう臨機応変のアイディアに感心した我々は、野村鐙券が用意している国債や公債の、合計二十数種類にものぼるリストに目を奪われた。さすがは天下の野村だねえ、と、私と副理事長は顔を見合わせたのだった。